※ストーリー上の大事なネタバレを含みます
※謎の男=「ミロス」
 



「出立」




バオールが────父が国を追放されたのは彼が8歳の頃だった。
彼は父を尊敬していた。
国で一番の物知りで、いつも難しい顔をして何かを考えていたが、彼には優しくしてくれた。他の家の子供のような甘え方はできなかったが、机に向かい書物を広げる父の背中を見ているのが好きだった。
やがて長じるにつれ、父と街の人々との不和を感じるようになった。
幼い故に詳細はわからなかったが、人々の集まりで父の言葉に反論する者がいる。家に戻った父が、母に何か愚痴をこぼしている。
街の、国の皆が父の説く言葉を理解してくれない────そのように聞こえた。

やがてその日が訪れた。
街の人々が家に詰めかけ父を連れ出した。

────何故そのように野望や欲望を抱くのだ!?
────お前は国の掟を破った!
────我々を庇護してくださる神々の怒りを買おうというのか!?

「お父さん!!」
呼びかけた彼の叫びは父に届いただろうか。
腕を引き寄せ後ろから強く抱き締める母に抗うことはできず、俯きがちに立ち去る父の背を見ているしかなかった。


そして幼い子供が少年に成長し、様々な物事を知るにつれ、彼の父が何を以て国を追放されたのかを理解することになる。
神々の子孫や従者であったという誇りとともにひたすら穏やかに生きることを定められたこの国。その在りようと父の理想はあまりにもかけ離れ、いつしかその心を外へと向かわせていたのだろう。
罪深いことに、父は野望だけではなく、国の宝もその懐に潜ませて出国を果たしていたのだ。

1年ほどは、人々はバオールの妻とその息子に同情的だった。やがてそれは無関心に変わり、時折は悪意のある噂話になり、母子は次第に孤立するようになった。母は徐々に気力を無くし、病の床に着き、そうして死を間近に迎えていた。

「お母さん……」
「ごめんね、ミロス……お前を置いて、私は……」
人は死ぬと冥界へ赴くという。そこでハデスの裁きを受け、時を経て新たな生を受けるのだと………。
「お母さん……あなたが冥界へ行くというなら、僕は」
痩せこけた母の手を握りしめながら、彼は耳元で告げた。
「お父さんを……バオールを探し出して、この手であなたの元へ送ってあげる……」
「………!? ミロス、それは……!」
見開かれた母の目は驚愕を伝えてきたが、それも束の間、やがて光を失い瞼は閉じられた。


村八分の状態だったとはいえ、母の葬儀は二、三軒の近所の者が手伝ってくれた。全てが終わった後、共同墓地の隅の小さく真新しい墓石を見下ろしながら彼は誓った。

父を────バオールをこの手で殺すと。

約束の地エーウス────野望や欲望を持つことを禁じ、心穏やかに過ごすことを定められたこの国で異端とされ追放されたバオール。
ミロスは確かにバオールの息子であったのだ。

「殺意」という名の強い欲望を抱いて、彼は国を後にした。






《END》 ... 2025/04/12




 


1992年のSFCのゲームですよ奥さん!タイトルだけは知ってて名作と言われてることも知ってたのですが、何故か先月気紛れでSwitchのG-modeアーカイブ版をプレイしたら面白すぎて脳天かち割られました。あらすじも何も知らずネタバレもなしでプレイできて本当によかった…!
せっかくなのでSFC版もゲットして現在プレイ中です。サクサクのガラケー版と違うところ色々あって楽しい〜!
4人目君こと謎の男が噛めば噛むほど美味いですね。 ガラケー版を先にプレイしちゃったので脳内ビジュアルは赤い鎧じゃなくてガラケー版のミニスカ絶対領域がえっちなデザインの方です。





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